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目前に迫る二つのライト、遠くに追いやった黒猫がこちらを見ている。
それが、オレが最後に見た光景だった。
意識が覚醒を促すように瞼が震え、ゆっくりと目を開いた青年の目に映る真っ白な空間。
何も無いその白い空間を見つめながら再び目を閉じようとすると猫の鳴き声が耳に届きそちらへと視線を向ける。
1匹の黒猫が違う色の双眸をこちらに向けまっすぐに見つめながら尾をしなやかに左右に揺らしている。
「お前、無事だったのか?」
青年は安心したような声音で呟くと黒猫へと手を伸ばせばその手に反応しゆっくりとした動作で歩き始めてはその手に頬を擦り寄せる。
思い出したように青年は空を見つめるとポツリとつぶやく。
「そうか、俺は…お前を助けて死んだのか」
「理解が早いね。他の子達だったら泣いて嘆くのに」
「この世界に、生に…俺は別に未練なんてないからな」
「ふーん…お兄さん、面白いね。気に入ったよ」
猫の頬が離れる感覚に視線をやれば純白の神父服に身を包んだ先程の猫と同じ異色の双眸を持つ黒髪の幼顔の青年がしゃがみ込み青年の顔を見つめていた。
多少目を見張り驚く素振りを青年は見せるものの直ぐにその表情から驚きの色は消える。
「何だ、もっと驚くと思ったのに…。君は人間と言う生が嫌なの?」
「…さぁ、自分が他人と違い過ぎるのが嫌なのか。周りから気味悪がられるのが嫌なのかもう理由は忘れた…ただ、もう生きるのが嫌なだけだ」
「果たしてそうかな?君は、動物が好きだろう?自由に生きる彼らが羨ましいんじゃないの?」
「そんな質問しなくても、お前が神なら全て分かっているんじゃないのか?」
「…本当、察しが良くてつまんないなぁ。僕は何にも捕らわれない神様さ…名前はチシャ。君を気に入ったから僕の管理する世界に新しく生まれて貰おうと思ってね…上手く行くかは分からなかったんだけど干渉しちゃった」
チシャと名乗った神は何も無い空間に弧を描いては其処から現れた鎖のようなものを持ちながら俺に歩み寄り首に何かを掛ける。
冷たい感触に僅かに眉を寄せるも突如己の身が光り輝き眩しさに目を閉じれば頭の中にさまざまな情報が流れ込んでくると共にその情報を処理しようと脳がフル回転しているのか襲ってくる頭痛に眉を寄せた。
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