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「 し ・ ん ・ ちゃ ・ ん。 」
私の肩をつついた、そしてその名前を今だに呼ぶのは、ただ一人。
「華菜子ねっ!もうその名前で呼ばないでって言ってるじゃない。」
そう私は、性同一性障害で元男なのだ。
相変わらず、親友の華菜子は、‘ 信吾 ’の時のニックネームで呼んでくる。
「まぁ、まぁ、カタイ事言わずに、ウチの大学で知ってるの私ぐらいなんだし?」
「だから余計よ。」
バレたくないのに、この子ってたまにズレてるのよねぇ、
慣れもあるけどあまり気にしていなかった。
「そうそう、合コンあるんだけど、‘ さお ’ちゃんもくるぅー?」
さおちゃんってさっきのイヤミなのかしら、まぁそんな事より、
「いくいくー。いい男いるかしら?」
長年、我慢してきたんだもの、最近ようやく、
普通の男女と絡むのも慣れ、積極的に呑み会やサークルに、参加していた。
女になって数年は、‘ そっち ’系の街に行き、‘ そっち ’系の人とばかり絡んでいた。
この美貌と名前を手に入れたんだから、頑張って恋人探しをしなきゃ、
最も華菜子に邪魔されて、なかなか出来ないが。
「いるわよー。しんちゃんがいい男じゃない。」
コイツは、バカなの?なんでこんなキズつくような事ばっかり言うの?でも、私はニッコリ笑って、
「イヤだぁー。そんな冗談ばっかり言ってぇ。」
「……。バレた?いやぁーさおちゃん綺麗になったから、
ちょっとイジワル言っちゃったのぉ、ごめんね。」
その前に華菜子は、ボソッと何か言った気がしたが、嬉しい事を不意に言われた事に気持ちは、
いっていた、そうだから悪気はない子なのだ。
いつもの事だと…。
華菜子と出会ったのは、5年くらい前、まだ格好も男だった時で、高校生だった。
私は、なんとなく小さい頃から、性同一性障害じゃないかと感じていたが、
あえて向き合わないようにしていた。
親の体裁考えたりとか、今考えたら、くだらない事をぐちゃぐちゃ考えてた。
華菜子と出会うまでは、ずっと‘ 男のフリ ’をしてた。
華菜子は性格悪い所もあって‘ 同性 ’には嫌われるタイプだけど、私にとっては、
自分の殻を破るきっかけを作ってくれた、言わば恩人なのである。
そして、初めて‘ 同性 ’として仲良くしてくれた、女友達なのである。
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