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救急搬送された病院にその場に居た皆が駆け付けたが、手術室の前まで入れるのは親族のみとされ、上原・後藤・サントスは、ロビーから丈瑠達を見送る。手術室の隣にある待合室に通されると、看護師が渡す秋の指輪に、丈瑠は繋がれた絆を外された様な気がして、それをギュッと握り締めた。
「俺の代わりに・・ごめん・・丈瑠・・ごめん」
壁にもたれたまま床に座り込んでいる奏多が両手で顔を覆ったまま静かに零すと、
「お前のせいじゃない・・秋じゃなきゃ、誰も気付かなかった・・」
丈瑠はそう言って、奏多の肩に手を置いた。
「あんなに血が沢山・・母さんにもしもの事があったら・・」
籘が薄茶色の瞳から大粒の涙をボロボロと流すと、
「籘、秋ちゃんは俺達を置いて行ったりしない」
純一郎が力強くそう言って、籘と抱き合って泣いた。
「秋は強い。絶対に大丈夫だ」
丈瑠は自分に言い聞かせる様に呟くと、指輪を握った手を額に当てた。
(雪・・頼む、秋を連れて行かないでくれ!)
待合室にある手術中のランプは、長い間灯ったままで、4人は永遠に感じるその時間に、秋の存在が薄くなって行く様な恐怖を必死に押し殺す。笑う秋、怒る秋、拗ねる秋、自分を見上げて微笑む秋。色んな秋の姿が丈瑠の脳裏をよぎると、丈瑠は静かに涙を零しながら呟く。
「いつも一番大事な所で・・後一歩が間に合わねぇ・・」
「・・父さん」
丈瑠のそんな姿に、純一郎が丈瑠に縋り付くと、丈瑠はもう堪える事が出来なくなった嗚咽を漏らす。
「丈瑠さん!」
籘もそんな丈瑠にしがみつくと、丈瑠は二人を抱き締めた。
「あいつが居ない人生なんて考えらんねぇんだよ・・幸せだったなんて言うなよ・・これからじゃねぇか・・諦めないでくれ・・戦ってくれよ・・秋!」
手術が始まってから4時間が経った頃、待合室にあるランプが消えると、4人は一斉に立ち上がった。
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