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~未来へ~
「父さん、花持って来た?」
「持って来たよ。お前こそ線香持って来たか?」
「だから全部1つにまとめて持って来ようって言ったのに二人がいいって言うから!」
籘に怒られて、純一郎と丈瑠は肩を竦める。
「あいつ、段々と口調が秋に似てきたな」
丈瑠が小さな声で純一郎に零すと、純一郎も笑って頷いた。
‘藤崎家’
一つの墓の前で3人が立ち止まる。
「雪、来たぞ」
丈瑠が持って来た花を挿しながら言うと、籘と純一郎も墓の周りを綺麗に掃除し始めた。
「もうすぐ秋の側に移してやっから、もう少し待ってろよ?」
「いつ移すの?」
「坊さんの都合もあるから、相談してみないとな・・でも、なるべく早くするつもり」
「そうだね・・一人だけ東京で父さんも寂しがってるから」
籘の零す言葉に、丈瑠がその頭を撫でる。3人で線香に火を点けると、揃って手を合わせた。
「慌ただしくてすまんな・・今日はこれで帰るけど、次に来る時はお前も連れて帰るよ・・」
丈瑠は墓石に手を置いた。
「父さん!時間!」
純一郎の言葉に、丈瑠は時計に目をやると慌てた。
「やべぇ!遅れた!」
「走ろう!」
3人は大慌てで走った。
急いで車を降りて、病院の入口に走ると、退院の手続きを済ませた秋がムッとした顔で立っているのが見えて、3人はお互いを肘でつつき合いながら秋の前に立った。
「・・ちょっと遅れちゃった」
「ちょっと?」
「秋ちゃん、これにはね色々と事情が・・」
「どんな?」
「まぁ、そんな怒んなって・・傷にさわるよ?」
「怒るわよ!1時間よ!?折角退院出来たと思ったら病院の前で1時間も待ちぼうけなのよ!?貴方達が私の退院を心待ちにしてた訳じゃない事がよ~く分かったわよ!」
秋が3人に背中を向けると、秋と一緒に3人を待っていた奏多が笑う。
「すげぇな、シェパードがチワワに怒られてやんの」
「もういい!奏多君行こ!3人は心ゆくまで東京を満喫してればいいわ!」
秋はさっさと奏多の車に向かって歩き出し、奏多も3人に向かって笑って手を振る。
「秋は俺が送ってくから、また向こうでな」
「秋~、ごめんって~」
「母さ~ん」
「秋ちゃ~ん」
3人が情けない声を出したが、秋はソッポを向いたまま奏多の車に乗り込んだ。3人を残して車が走り出すと、隣で拗ねている秋に奏多が笑う。
「いいのか?きっと3人共慌ててるぞ?」
「いいの!どうせ帰る所は一緒なんだから」
興奮して話す秋が、傷口を押さえるのを見ると、
「シート倒して寝てろ。本当はこんなに早く退院なんて出来ないんだからな」
奏多が心配そうに言うので、秋は大人しくシートを倒して横になった。
「医者も助かったのは奇跡だって言ってたよ」
「うん・・私ね、雪に怒られちゃった」
「雪に?」
「雪が帰れって・・丈瑠さんが呼んでるだろって」
秋が話す言葉に、奏多がプッと笑った。
「こっちは死にかけてるのに、もっと言い方があるでしょ」
秋が思い出して拗ねた様に零す言葉に、奏多の肩が震える。
「今まで気にした事なかったけど、雪って絶対私よりも丈瑠さんの方が大事よ」
「あっはっはっは!やめろ、運転出来なくなるだろ!」
奏多が吹き出して笑うと、秋もクスクスと笑った。
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