第一章 藤 ~出会い~

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月島は壇上の近くに置いてあるカゴからボールを1つ取ると、藤達を体育館の隅に立たせた。月島を前にして、左から藤、真ん中に卓人、右に義和の順で並ぶと、 「まずは俺が投げたボールを腕で返してみな。義和、いいお手本見せろよ?」 月島はニヤリと笑って、義和にボールを放った。義和は膝を落とし両腕を真っ直ぐに伸ばすと、放られたボールが腕の内側中央に来る様に合わせながらボールを当てた。ボールは義和の腕から月島の少し右寄りに飛び、月島が長い腕を伸ばしてそれを受け止める。 「お前、ちゃんと俺の所に返せよ」 月島はそう言って笑ったが、藤は綺麗な姿勢でボールを返した義和が格好良く見えた。 「次、お前な」 月島が卓人に声を掛け、先程と同じ様にボールを放る。ボールは義和を真似て形を作っていた卓人の腕の中で向きを変え、明後日の方へと飛んで行った。いつも徒競走で卓人に勝てない義和がそれを面白そうに笑うと、 「出来なくて当たり前なんだからな。やった事ないんだろ?」 月島が義和をジロリと睨み、卓人に声を掛けた。藤は次が自分の番だと思うと緊張して来た。 (卓ちゃんだって出来ないのに・・・) 心の準備も整わない内に、 「次、行くぞ?」 と、月島の声がしてボールが飛んで来たので、藤は慌てて義和の形を真似て腕を伸ばす。腕にボールが当たった瞬間、藤の胸に懐かしい既視感が広がった。 (俺、この感じ知ってる?)
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