第1章

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~前夜~ ボブが勤務先のオフィスを出た時には夜11時を過ぎていた。 得意先との商談がうまくまとまりそうで、これが決まれば昇進は固い。プレゼンを明日に控えていて、入念に資料をチェックしていたのだ。息子のジョンにそんなことを説明しても許してはくれないだろう。ジョンは今日で7歳になる。プレゼントはまだ買っておらず、もうこんな時間まで開いているホビーショップなどどこを探しても見つからないだろう。今日は素直に謝ろう。 11月の終わり、ニューヨークの寒空の下を凍えながら郊外の自宅へと歩を進める。自然と足速になる。 週末、ジョンとジェシカを久しぶりにセントラルパークにでも連れて行こう。ジェラートとプレゼントも買えばジョンも文句はないだろう!ボブの頭の中ではすぐには来ない週末の家族の幸せなひと時がきらめいていた。 ほとんど人気の無い通り、ボブが週末に思いを巡らせながらトボトボと歩いていると目線の先に人影があるのが見えた。ユラユラと揺れながら徐々に近づいて来ているようだ。 酔っ払いだろうか? 普段は道行く人など気にはならないが、この酔っ払いは挙動がおかしい。 (無視だ無視。早く帰ろう。) すれ違い様、ボブの腕に激痛が走った。 なんと、酔っ払いが噛み付いているではないか! 「何しやがるこの野郎!痛え!」 ボブは男を渾身の力で突き放した。通りの街頭に照らされた男の顔は、ボブの血で口の周りを赤く塗らし、土気色のまさに生気を感じられないほどの表情をしていた。
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