0人が本棚に入れています
本棚に追加
それはつい10日ほど前のことだった。親を亡くした孤児が集まって暮らすこの学園を、満月が穏やかに照らす夜、突き刺すように鋭いサイレンが学園中に鳴り響いた。
地震?火事?
その音は防災訓練で聞いた音とはまるで違う、割れたガラスで動脈を切った、鮮血のような音だった。
小さな子供たちはその音に怯え泣き始め、他の子供たちも何が起こったのかわからないままざわめいている。
すると、誰かが叫んだ。
「外になんかいる!」
その声を聞いて広間で寝ていた子供たちは一斉に窓へ群がった。校庭の裏にある第3寮に向かってロボットたちが四方八方から溢れ出て来る。
初めて見たそのロボットたちは青のような紺のような太いラインが入った銀色の樽型のボディに、半円型の頭を乗せた前時代的な形のロボットだった。
アンドロイドやヒューマノイドが当たり前に暮らすこの時代に、その古臭い様相はかえって何か恐ろしい存在であることを伝えているようだった。
「オソウジシマス……オソウジシマス……」
そうつぶやきながら集まって来たロボットたちの声は徐々に重なり合って、しっかりとした言葉に変わっていった。
「おそうじ?」
それは言いようの無い恐ろしさを秘めた言葉だった。
この学園の生徒はみな親を亡くし、国の援助を受けてこの学園で暮らしている。先生や寮母たちが親のように子どもたちを包み、優しく穏やかな日々を送っている。子どもたちはいつだって学園の大人たちを信じ、いつの日か孝行するこを夢見て日々勉学に勤しんでいた。
しかしその一方で街に出れば陰口を叩かれ、物を投げられることもあった。心ない言葉に傷つけられることは日常で、自分たちが「ゴミ」と呼ばれていることにも幼い頃から気がついていた。
でも、そんなことは慣れている。ただ、辛い世界が学園の塀の外には広だっている、そのことを誰もが理解していたことが何よりも辛かった。
最初のコメントを投稿しよう!