第1章

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「今日も来るのかなぁ……」 どうせ死ぬのに食べる意味なんてあるのかなぁ。 皿の上で水分を失い固まっていくスパゲッティをフォークでつつく。大好きなカルボナーラなのに、全然食べる気がしないよ。 「かなこ、ちゃんと食えよ」 頭の上から声がして顔を上げると、お盆の上に乗ったカツ丼が目の前に現れた。 「あ、アヤト」 「お前、ただでさえ小せぇのに、食べないと身長止まるぞ」 威勢良く肉を噛みちぎるアヤトは、まるでこんな非日常を一人だけ知らないみたい。 「そんなこと言っても……食べる気しないよ」 肩を縮めてもそもそと小声で答えると、アヤトはカツを一切れスパゲッティの上に置いた。 「じゃあこれやるから食え」 スパゲッティを食べられない人がカツなんて食べられるはずがないのに。 わたしが無理だよ、とカツを突き返すと、アヤトはカツを二切れにして返して来た。 ちょっと前までちょうだいと言ってもくれなかったくせに……。 そんなやりとりをくり返していると、終いにアヤトのカツ丼はただの白米になった。 「……ふふっ、もうバカじゃないの!」 スパゲッティの上に無造作に置かれた四切れのカツを白米の上に戻すと、わたしはフォークにスパゲッティをくるくると巻き付けた。 「食べればいいんでしょ!」 やっと食べ始めたわたしを見て、アヤトは満足げに笑ってカツ丼を食べ始めた。
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