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カトレーナは一つひかかった。
「禁断の…っていうのは、どういうことなのかしら?」
美味しい話には甘い蜜だけではないものだ。
美しいバラには棘が…
シュルクは一度アルフィーの顔を見た。
「記憶を取り戻せる代わりに対価として、その人の人生に関わる大切な何かが一つ失われる…ということらしいです」
「それが、禁断という意味なのね…」
カトレーナは表情を強ばらせた。
「アルフィー…貴方はどうしたいのかしら?」
カトレーナはアルフィーの背丈に合わせて体を屈ませた。
ちょうど膝を着いて背筋を伸ばすくらいだ。
両手をアルフィーの肩に優しく乗せ、少し微笑む。
「僕は…」
優しいカトレーナに、アルフィーはたじろぐが、答えは一つしかなかった。
きっと、このまま記憶がないままで暮らしていけば、一生カトレーナの弟として裕福に幸せに暮らしていけるだろう。
それだけれど、アルフィーはそれ以上に自分の成り立ちが知りたかった。
「お姉様…僕は、自分のことが知りたいのです。失うもの…あったとしても、今の僕は暖かい陽だまりの中で傷つかずにぬくぬくと暮らしていけるほどの優しすぎる罰は、むしろ心が張り裂けそうなぐらい痛くて苦しいのです」
アルフィーの言うことは、とてもじゃないけれど、8歳くらいの子供が言うような言葉には思えなかった。
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