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「シュルクのネジはよろしくて?」
カトレーナのネジが巻き終わり、シュルクに尋ねる。
「はいっ。お気になさらず。私ども王国騎士や使用人共は、朝一番で巻き合う日課がありますのでっ!!」
床に片足を立て、カトレーナにかしずく。
〝シュルク〟は、王国騎士兼姫の専用護衛を仰せつかっている23歳になり、まだ若いながらも腕の立つ騎士である。
少し長い、耳にかかるクリーム色の髪の毛は、まるでどこかの王国の王子の様に美しく、容姿端麗で、使用人の中でもかなりの〝イケメン〟と言う名の有名人であった。
そして姫の専用護衛に就任したのは、ついこの間のことだった。
なので、このネジ巻きの世界の姫、カトレーナとの絆もまだまだ浅い関係であった。
「私達のネジが止まってしまったら…その際に全ての記憶が失われてしまう…。」
小鳥のさえずりがする、窓辺に片手をつき、空を見上げるカトレーナ。
「巻けばまた、この命と言う名の歯車が回り出すけれど、記憶はまた一から紡ぐことになってしまう…」
ふいに視線をシュルクに戻す。
「こんな寂しくて悲しくて切ないことは、あるのかしら…。もしも存在するのなら、ネジの無い世界が羨ましいわ」
切なそうに呟くカトレーナを、シュルクは視線を外すことなく、ただただ見つめることしかできなかった。
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