1人が本棚に入れています
本棚に追加
たんたんと階段を上るあたしにきーちゃんは素直についてきた。何か言いたそうな顔をしているのは感じてたけど、あたしは頑なに何も聞こうとしなかった。
少し振り向いて、ちょっと待ってとつぶやいてあたしは部屋のドアを思いっきり閉じた。洗濯物や机の上のプリント類を汚く見えない程度にまとめた。その間ずっと手の震えが止まらなかった。
ふー、と深呼吸をして気持ちを落ち着かせてからドアを開けて入って、と小さな声で言った。
「ここがあたしの部屋。狭いけど、荷物が多いから荷物は隣の部屋に置かれることになるから、普通にスペースあるでしょ。じゃ、荷物置いてきてよ。分かった?」
「なんでここにいるの?とか言わねぇんだな」
無視。
「話したくもねぇか。俺も、嫌われたもんだな」
当たり前じゃない、と心の中で毒づく。
「なぁ、きっちゃんー」
「きっちゃんなんて馴れ馴れしく呼ばないでよ!もうあんたとは何の関係もないんだから!」
そう叫んだときに、あたしは思っ切りきーちゃん、綺亜をおし飛ばしてしまったらしい。イテェ、と綺亜がお尻をさすった。
「ごめん、きーちゃ…綺亜」
「へぇ、昔の呼び方もそんなに嫌なのか?」
「そんなわかり易い質問、普通聞く?当たり前」
チェッ、と綺亜が舌打ちした。
心の中できーちゃんと呼んでいたことは死んでも言えないな、と思った。心底嫌っているわけじゃない。別に死んで欲しいわけでもなんでもない。ただ、あの頃のことを思い出したくなかった。今の惨めな自分と過去を比べたくなかった。
「本当にサイテーだよ。誕生日の前日にこんなことが起きるなんてさ…」
あたしがふぅ、とため息をついた。
その時、ちょうど綺亜がこう言ったような気がした。
だから来たんじゃねぇか…って。
最初のコメントを投稿しよう!