メモ

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『明日僕が世界から消えてもこの世界を愛し続けてくれますか?』 窓の外は夜色に染まっていて、それは僕の身体も同時に染め上げて透明な黒を彩っている。それはメイプルの鮮やかな赤いグラデーションすらも飲み込んでいる。この部屋の外に出てビルを降りればそこには月影町中央区の断頭台広場(半世紀前に数えきれない程の魔女を処刑した為に当時地面は血塗れ、今は石作りの道で塞いでいる)があるだろう。 僕はこの部屋から抜け出すことが出来ずにいる、もう何日も何日も。かれこれ何もしないで、ただ呆然と、何も生まないで。何の為に存在しているのかを疑う。いや、存在の意味がわからないからこうして部屋に引きこもり、自分のいなくなった世界をここから見下ろしてその様を観察しているのだろう。目が悪いくせに。 三日月はいつか消えてしまうんだよ。消えてもまた生まれてくるけど、一度消えてしまったものはやはり一度消えているから、新たに生まれたそれはまた別の命なんだよ。死んだら生き返らない。 お月様は光る、陽の光を借りて光っているだけだって謙遜するけど、夜道を青白く照らすそれはやっぱり月光なんだよ、太陽にそんな器用な真似なんて出来はしない、だからもっと誇ってよ。 僕の好きなお月様が消えたら僕はその時どんな顔をするのかな。まるで世界が滅びる様な夕日の色をバックにこの部屋から飛び降りるのかな。眼前に広がる世界は大きくなっていき、衝突する瞬間初めて世界のミクロを目にすることが出来る、初めてこの世界を作る要素を知ることが出来るに違いない。でも、それなら僕はお月様に飛び込みたいな。 僕がいなくなったら世界はどんな風に回るんだろう?僕が見ていない場所で回るものなんて到底理解し得ないよ。 きっと僕の本当は身体の奥の奥の奥の方にあるから誰にも触れられやしない。本当の姿は誰にも見られやしない。それが嬉しいのか哀しいのか。でもあの日の夜、包まれて、初めてそれは肉体を支配したんだと思う。身体の震えも痙攣も呼吸の苦しみもきっと、誰かに心を預けていいと生存本能が理解したから飛び出した。 その時やっと三年前に好きだったかくれんぼの曲の大サビの歌詞の意味がわかった気がした。 人間なんて嫌いだ、否、怖いだけなんだ。トゲだらけの癖に注意して頑張って触った瞬間に砕け散るような脆さ、怖いよ怖いよ怖いよ。 ※ここでメモは途切れている。
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