黄昏時

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 背の高い棚の上から三段目、目線より少し上の辺り。  その左から四冊目と五冊目の間。  殆ど隙間の空いていないその場所に、右手の人指し指と親指を突っ込む。  定期的に図書委員が管理、整頓を行っているのだろう、滑り込んだ指先は窮屈で、左右から締め付けられる。  指と指との感覚を拡げ、半ば無理矢理スペースを作っていく。 「ふぅ……」  本一冊分の余裕が出来た時点で、思わず息を吐いた。  指先を本棚に差し入れたまま、左手の本へと視線を落とす。  藍色のしっかりとした装丁。  この本を見つめていると、今日までの一年間が走馬灯のように脳内を駆け巡る。  恐怖と絶望に染まった人の顔が、次から次へと過る。  記憶にへばりついた彼等の表情を振り払うように、左手の本を隙間へと捩じ込む。  やっと解放された二本の指は、挟まれていた跡が残り、僅かに痺れていた。  恐怖も、焦燥も、絶望も、緊張も、罪悪感も、使命感も。  指先に残ったこの痺れのように、時が経てば消えてしまうのだろう。  今は寝ても覚めてもこびりついて離れないのに、来年の今頃にはきっと全て忘れているのだろう。
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