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痛々しく直視すらし難かった足は、今でこそ歩けるようにはなったものの、つい最近まで松葉杖が手放せなかった。もう包帯は巻いていないが未だに引き摺っている節がある。両足だから尚更その歩き方は不自然だった。
そういえば、この人に憧れて福寿に入ったんだよな…………
それなのに七不思議に巻き込まれて、成績も落ち、危うく親父の命まで奪いかねなかった。
結果、年中世界中飛び回っている親父が今年は家にいられたわけだが、負い目を感じていた俺はろくに話をする事すら出来なかった。
「…………なぁ、親父?」
「ん?」
俺が死んだらどうする?
継ぐはずだったその言葉は喉の奥から出てこなかった。
そもそも訊いたって仕方の無い問いだった。どうするも何もない。
ただ、それでもやっぱり福寿を辞めたいとは思わなかった。
「……親父が福寿にいた時って七不思議あった?」
誤魔化そうとして出てきた言葉は、またしてもそんな言葉だった。
余程俺の頭の中はそれで一杯らしい。
親父は、思案するように空を仰ぐ。兎が一羽、頭から親父の朽ちに飛び込んでいく。
「……あぁ、あったな」
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