第壱夜

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第壱夜

 四月八日  例年この時期になると決まって『春の嵐』とか言われるような風雨が日本列島襲い、咲き誇る桜を無惨に散らしていく。  しかし、今年はかろうじて、四月の頭のこの時期でも僅かに薄桃色の花が残っていた。  殆ど若葉の緑に埋没してしまってはいるが…… 「今日から、か……」  左右に建つ花崗岩の門柱は、一対である事を誇示するかのように、頂点から伸びた青銅の蔦のようなデザインのアーチで繋がっている。  その門を潜り抜ける手前で、門の後ろに聳える建物を見上げ、思わず足を止めた。  門の真ん前で立ち止まった俺の横を幾人もすり抜けて行く。  皆真新しい臙脂色のブレザー姿で、期待で眼を輝かせ、軽やかな足取りで門を潜り抜けていく。  私立福寿高等学校。  文武両道を掲げ多くの著名人を世に出している。  創立百年を越える名門校で、三年前に校舎の建て替えが行われ、制服も一新された。  更に、昨年には敷地内にジムや温水プールを擁する運動施設が建設された。  その為、男女共に非常に人気が高く、入学希望者は毎年増加している。  そんな学校に、今日から三年間俺は通うのだ。
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