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傾いた身体に咄嗟に手を伸ばし、声をかける。
「……あ、有難う」
俺の手に支えられ、すんでのところで転倒を免れたそいつは、恥ずかしそうに苦笑を浮かべる。
女の子だった。
「……あ、いや、別にっ」
気付けば、抱き抱えるような体勢になっていた事に気付き、慌て手を離した。
でも、彼女から目が離せなかった。
長い黒髪。
白い肌。
黒瞳がちな眼。
薄い唇。
名前は知らないが、以前にも一度会った事のある娘だった。
合格発表の日。
今のように校舎沿いに貼り出された掲示板から受験番号を探していたその時。
掲示板から離れた校舎の外壁に、寄り掛かるようにして立っていた少女。
長い髪と黒いセーラー服の赤いスカーフが、一月の冷たい風に靡いていた。
寒い中で防寒具も身に着けず、日溜まりの中に佇む姿が妙に印象的だった。
「ええと……顔に何か付いてる?」
「違うんだ。悪い。合格発表の時にもアンタを見かけたから……」
余程じっと見つめてしまっていたのだろう、彼女は苦笑した表情のまま訊いてくる。
つい無遠慮に見ていた事に気付き直ぐに詫びた。
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