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「とりあえず、便所にいってみよう。またひどくやられてないといいけど」  クニがうんざりした顔でいう。 「おれ、安田のアホのクソを手でつかむのだけは、絶対に嫌だ」  テルが爆発しそうな調子でいう。 「誰だって、そんなもん嫌に決まってるだろ」  男子便所は小型体育館ほどある柔術場の長い廊下の奥にあった。夜のこの時間は無人で、廊下にも秋の気配が漂(ただよ)っている。虫の音(ね)だけが薄暗い廊下を満たしていた。  タツオがすりガラスの戸を引くと、いきなり人にぶつかりそうになった。 「キャー! ごめんなさい。へんなことしに男子便にいる訳じゃないから」  驚いた。憎きカザンの妹、東園寺彩子(とうえんじさいこ)がバケツとブラシを手に立っていた。 「サイコ、どうしたの」  柔道の名手、曽我清子(そがきよこ)がずしずしと駆(か)けてくる。手には雑巾をさげていた。
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