第1章

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イケメン、いわゆる、イケてる面子というのは二種類あると風間由美子(カザマ、ユミコ)はそう思う。一つは生まれつき容姿が優れて居る奴、もう一つは自分が格好良くなれると知れた奴だ。どちらがいいとは風間由美子は言えないけれど、やっぱり後者がいいのではないかと思う。生まれつきもっているよりも、努力したほうがなんとなく素敵であるし、前者の場合は本人にまったく自覚がなかったりする。 「吸血鬼?」 と大学の食堂、学生たちのおしゃべりの声が響く中で男が狐うどんをすすりながら言った。風間由美子はその姿を見ながら(イケメンって奴はなにしてもさまになるんだなー)と心の中で呟いた。男の容姿は整った顔立ちにしっかりとした体型、着ている服は安物なのに、この男が着ると雰囲気が変わるんだから不思議だ。それは容姿だけではなく、人望にも現れるらしく、ちょっと離れた位置で女子のグループがチラチラと視線を飛ばしているが、とうの本人はどこ吹く風で狐うどんをすするのをやめて、割り箸を置く。 「吸血鬼とはどういうことだ」 「噂よ。噂、最近、噂が広がってるの。夜になると吸血鬼が現れるって、ま、眉唾物だけれどね。最近、イケメンの吸血鬼がここらへんに出没してるって噂」 風間由美子がいだく吸血鬼のイメージは、黒いマントに真っ黒な髪に整った顔と鋭い牙で高笑いしながら女の血を吸うという誰もがいだくイメージでしかないが、こういった噂話が好きだ。 「悠斗はどう思う?」 結城悠斗(ユウキ、ユウト)に問いかける。 「さぁな、そんなのは単なる噂話でしかないんだろう? なら、放置しておけばいい」 「それが本物だったとしたら?」 「なに?」 「火のないところに、煙はたたないよ。悠斗、噂話は語られるから広まった、だったら広まる為の原因があるかもってことなんじゃない?」 「つまり、大学に吸血鬼が生まれたと? 空想の『吸血鬼』が、生まれたとそう言いたいのか、由美子」 「そう、ボクは、そう思うけどね。大学に吸血鬼なんて物珍しいじゃないか」 発端は誰かが言い出したこと、でも、それはいつからか力を持ち始める。語り語られ力を持つ、もしもそんな力があるとしたら? 噂話はーーー物語は語られるから物語なのだ。 「大学に潜む吸血鬼、探索にいこうよ」 「くだらん。俺は何もしないぞ。そもそもそんなものはいないだろう」 「いるよ。いるんだよ」
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