第1章

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風間由美子には漫画や小説のように、不可思議な力やそういった力を持った知人がいるわけでもないし、結城悠斗も同じだが、風間由美子はオカルトやホラーを信じている。特に言葉には不可思議な力があると思っている。言葉で綴られた物語が何年も、何年も語り継がれていくように言葉には力が宿るのだと信じている。 「お前は吸血鬼を見たわけじゃないんだろう? なら、なぜ、居るといいきれる」 と、結城は胡散臭さそうに答える。狐うどんはもう空になっており、お茶を一杯、啜る。 「そりゃあ、居たらいいなーと思うのと、ほんとに見たって言う人が何人も居るんだよ。悠斗にそっくりな吸血鬼がね」 「ぶっ!? ゴホッ!! ゴホッ!! なっ、何を言い出すんだお前、俺にそっくりな吸血鬼だと」 お茶が気道に入ったのか、結城はトントンと胸を抑えながら言った。単なる雑談として聞いていたら、思わぬところから意外なパンチが飛んできた感じなのだろう。 「まぁ悠斗は何、着ても似合うからねー、そういった吸血鬼のモデルになってもおかしくないんじゃない? ほら、神話とかも人間をモチーフしてるしさ」 ニコニコと笑いながら、風間由美子は、結城が吸血鬼の姿、黒いマントを翻して美女の首筋に噛みついてる姿が思い浮かんでいた。その美女は、もちろん自分になっている。 「だからといって、単なる噂話のモチーフにされるのは我慢ならんな」 「なら、一緒に探そうよ。もしかしたら悠斗の人気に嫉妬した人かもよ?」 「嫉妬しておいて、どうして、吸血鬼の真似事をするというより、俺はそんなに人気はないぞ」 知らないのは当人だけとは、このことだろう。結城悠斗は自分の容姿にはひどく無頓着なのに、何を着ても似合うのはやっぱり生まれつき、恵まれた容姿だからかもしれない。イケメンというのはつくづく罪作りな奴だ。 「もー、ごちゃごちゃ言ってないで一緒に探そうよ。吸血鬼」 ともう一度、風間由美子が吸血鬼の名を呼んだ時だった。ドンッと少し離れた席に座っていた少女が椅子ごと倒れた。談笑に溢れていた食堂が一瞬、静まり返り友達らしき女の子が、倒れた子の肩をゆすっている。 「何かあったのかな?」 「ちょっと行ってくる」 「え? あ、悠斗」 風間由美子の声を無視して、結城悠斗はズカズカと進み、倒れた女の子のもとに駆け寄った。倒れた子はまるで、貧血でも起こしたかのように
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