第1章

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真っ青で、友達の女の子がいくら肩を揺すろうが目覚めないない。そのことが少しずつ広まっていき、あちこちから囁く声が聞こえてくるが、結城はそれらをいっさい無視して、膝をついて呼吸をしているか確かめるため、首筋に視線を落とし、そして見た。 彼女の首筋に、奇妙な傷口を、長い二本の針を同時に刺したような二つの赤く丸い傷跡が残されていた。まるで吸血鬼の牙に血を吸われたかのように。その場ではあえて追求することなく、結城は彼女を身体の手を回し、グイッと持ち上げる。そう、お姫様抱っこするように。 「医務室につれていく、事情を聞きたい、ついて来てくれるか?」 と有無を言わせない視線と、倒れた友達のことが心配なのだろう、近くにいた友達はこくんと頷き、 「わかった。急ごう」 とだけ答えた。 風間由美子がかけつけたのは、結城が女の子をお姫様抱っこして医務室に行ったあとのことだった。正直な本音をもらすなら少し嫉妬していたのかもしれないが、医務室で騒ぐわけにもいかずに廊下の隅っこでうずくまり心の奥底に押し込んで少しだけうなった。 「吸血鬼の傷跡?」 倒れた女の子の友達に事情を聞いた結城悠斗の話を聞いた。 「えっと、倒れた女の子の首筋にまるで、吸血鬼に噛まれた傷跡が合ったってこと? そのせいで倒れた」 ちなみに、倒れた女の子の名は湯川夏美(ユカワ、ナツミ)と友達の名前は春本優奈(ハルモト、ユウナ)というらしい。湯川夏美の容態は単なる貧血と過労で休めば大丈夫だそうだ。 「いや、違う、確かに奇妙ではあったが貧血を起こすほど、出血していたわけじゃない。友達の春本が言うには、付き合ってた彼氏につきまとわれて、最近は寝不足気味だったそうだ」 「男女関係のもつれってやつ? ボクは遠目にしか見てないけれど、大人しそうな子だと思ったから、いがいかな」 「大学生なんだから、誰かと付き合うことくらいあるだろう」 と結城が答えながら続ける。 「おとなしい性格だから関係を断ち切ることができなかったかもしれないしな。まぁ、春本はしっかり者のようだし心配しなくてもいいだろう」 それは第三者からの視点というだけで、湯川夏美の性格までは知らないけれど、なぜか、風間由美子はぷーっと頬を膨らませていた。 「ずいぶんと肩をもつんだね。ボクの話には生返事しかしなかったくせに、それにお姫様抱っこだなんて、悠斗って大胆なんだ」
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