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毎度のことなので彼は仏頂面を隠さず彼女を見た。
ごめんね、と前置きをして、気まずそうに前の席に座る彼女は言った。
「不味いわけじゃないの、お店の雰囲気も、何もかも素敵だし、誘ってくれてうれしいし。でも……ごはんだけは別。おかあさんのごはんの方が美味しいの」
それは何度も聞いている。
実際、彼女の両親の親族でもある彼の恩師は言った、姪がそう言うのも無理はない、義姉の料理は天下一品だから、と。
「そんなに美味い?」
早くに母を亡くしていて、おふくろの味には郷愁を感じない彼は言う。
「うん、うちでは外食はあまりしない方だから、比較できないんだけど……でも、デパ地下とかの、へたなお総菜より数倍おいしいと思う」
「じゃ、今日はここを切り上げておかあさんの手料理を頂くというのはどうだ」
つい、彼は言う。
「それ、いいかも」
ぽん、と弾くように返ってくる答えに、彼は「え?」と瞠目した。
「聞いてみるね」
彼女は席を立ち、バッグから携帯電話を出しながらレストランの外へ出た。
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