【1】バラの花束は突然に

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おいおい、マジかよ。 今のは言葉の綾というやつだったんだけど…… 内心の焦りをつとめて表に出さないように、彼はひとり残された席で所在なく座っていた。 ほどなく、彼女が頭を振り振り戻ってくる。 「あのね、おかあさん、いいって言ってた。いつでもどうぞ、って」 ぱちん、と携帯電話を閉じながら言った。 「でもね、きちんとお食事は頂いてきてからになさい、って。せっかくのお料理を粗末にするなんて、作ってくれた人にも、あなたにも失礼だ、って叱られた。だからね、ご馳走になります」 いただきます、と手を合わせながら、彼女は目の前のコース料理に手をつけた。 一見すると我が儘この上ないことを言っている彼女、普通の男なら、こちらのもてなしにケチをつけられたともとれることだから、怒っているはずだ。 けれど、彼にはちっともそんな気になれなかった。 多くを望まず、贅沢も言わず、同年代の女子なら言いがちな、あれが欲しい、これを買ってというような物欲に走ることは一切ないかわり、難点があるとしたら外食が苦手ということだけ。 いつもさびしい思いをさせている彼女の我が儘ならきいてやりたい。 自分にだけ見せる素の姿が愛しいと思えるのだから。 本来、しっとりと夜長を楽しむはずのクリスマスディナーを、店員をてんてこまいさせるペースで片っ端から片付け、寸分漏らさず平らげて、それでもたっぷり小二時間ほど食事を楽しんだふたりは、彼女の自宅がある方面へ向かうタクシーに乗り込んだ。
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