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父を亡くしたばかりの私は彼に引き取られた。
父は彼の支援者で、私はその父の娘――
ただ、それだけの関係。
……だったはず。
やって来たのは、山沿いの、すぐ側に川が流れる大きなお屋敷。
彼は、この辺りでもそこそこ知られる家の血筋らしい。
ふと、窓から外を見ると紅葉に色づく木々の中、彼が立っていた。
それはよく見る笑顔じゃなくて、射るような、真剣な眼差し。
秋の日差しに眼鏡のレンズが、きら、と反射する。
その奥で、青い瞳が真っ直ぐに伸ばした右腕の先を見据えている。
なんだろう?
それは、私にとって一番よく知る鉄の塊だった。
――銃だ!
そう思った瞬間、空を切り裂く銃声。
「――っ!」
思わず両目をぎゅっと閉じて肩を竦めた。
「っ……?」
目を開けるとさっきの真剣な表情は消えていて、代わりに口角をつり上げて、ふっと笑う。
その日の晩は、兎だった。
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