41人が本棚に入れています
本棚に追加
――**
そして今、あてがわれた部屋で、私は彼の温もりに溺れている。
目が覚めて傍にあったのは、ただただすがり、溺れた温もり。
ゆっくりと寄りかかった体を起こす。
私、寝ちゃったんだ。
頭に添えてあった手がさらり、髪の毛をすくように離れ……、
すっと立ち上がり、傍にあった心地よい温もりまでもが離れてゆく。
「あ……」
言うより早く、右手に伸ばして絡めた指先が彼を引き留めていた。
「ここに……」
――ここにいて欲しい。
その言葉を口にできず俯く。
彼は歩みをやめて、踵を返し、私の言いかけた言葉の続きを待っていた。
「もう少し、ここにいてくれませんか?」
ほんの一瞬、彼は眼鏡の奥の青い瞳に驚きの色を窺わせ、けどすぐに、あの、いつもの笑顔を浮かべる。
最初のコメントを投稿しよう!