第1章

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祭りの巡業舞が好きだ。 薙刀を持つ竜神と片手刀を両手に持った疫神が戦う振付のやつ。 他の舞を舞う人たちは、どっちかしかしない。 父さんは竜神だったって言ってたけど、今は楽人でお囃子をしてる。 僕は、十歳を越えた2年前から舞人になって、疫神を舞ってる。 教えてもらっても見て覚えても、両方とも舞える気はしない。 それを、伯父さんの一人――上のおじさんののんちゃんは、両方とも完璧に舞える。 うるさい世話役のおじいさんたちが、これにだけは文句が言えないって言ってた。 それくらい、完璧で格好いい。 「社んとこの長男は、まだ、身を固めんのか」 祭りのたびに言われる言葉。 今も神社に祭りの片づけに来たおじいさんたちが、大きな声で話している。 何となく聞いてはいけない話のような気がして、僕は角を回った濡れ縁の方へ、そっと移動した。 のんちゃんはもう40歳を過ぎているはずだけれど、まだ、結婚していない。 それよりも楽しいことがあるんだって、前に聞いた時には言っていた。 おじいさんたちに、なんて言って説明しているのかは知らない。 結婚しないことがいいことじゃないって、おじいさんたちの話を聞いていたらわかる。 でも、僕はそのままののんちゃんでいいんじゃないかなぁって思う。 ちょっと困った人だけど、のんちゃんは格好いい。 「結局、継がんのだろう」 「じゃあ、どうするんだ?」
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