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「石垣んとこの長男が今年舞人になってたから、あっちに継がせるんじゃないか」
「石垣んとこは男二人か」
「じゃあ、安泰だな」
「ひとまず安心といった処だろ」
社っていうのは本家のこと。
皆おんなじ名字だから、通称が呼ばれる。
社の長男はのんちゃん。
社の二男がおーちゃんで、石垣って呼ばれる。
僕の父さんは社の三男で杉の木の、だから僕は杉の木んとこの息子。
「石垣の長男と杉の木の息子が舞ってたのは、なかなか、見ものだったな」
神社の濡れ縁に腰掛けていた僕に気が付かないで、勝手なことを言っていたおじいさんたちは参道の石段を下りて行った。
今日で今年の祭りは終わり。
きっと今から集会所か本家で宴会が始まる。
「ゆきちゃん、帰らないの?」
二つ年下の石垣の長男――今年、僕と一緒に巡業舞を舞った、従弟のとしが濡れ縁の下から声をかける。
「ああ、うん、帰るよ」
隣に立ったら、としの背がずいぶんと伸びているのに気が付いた。
僕もクラスでは真ん中くらいなのに、その僕とあまり変わらない。
のんちゃんと一緒でずいぶんと背が高いんだな、そう思ったら、すこし羨ましくなった。
「今からごはんかな」
「おじさんたちでお酒飲むんじゃない?」
「今年はのんちゃん、何やるかなぁ」
「ん?」
「毎年、のんちゃん、お父さんとなりちゃんに怒られてるよね」
「ホントだね」
「お酒のおかずばっかじゃなくて、僕らも食べられるものがあったらいいね」
「唐揚げくらいはあるんじゃない?」
「ゆきちゃん、ちゃんと食べなきゃ大きくなれないよ」
「としに言われたくないよ」
「だって、もう、僕の方が大きそうじゃない」
二人で、ゆるゆると石段を下りながら、本家に向かう。
遠くでもう一人の従弟が、大きく手を振って僕らを呼んでいた。
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