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今朝、ふたりは結ばれた。
男の抱擁を受けたのは初めての彼女だ、流した涙には結ばれた喜びよりも苦痛の色合いの方が強かったはず。今も歩くのが辛そうなのがよくわかる。いたわってやらなければならないのに――男とはしょうがない生き物だ。しっとりと指に吸い付くような、あの肌に触れたい、彼女を欲しいと思ってしまう。
秋良も思う、話には聞いていたけれど、まさか、初めてがあんなに辛いとは。もう二度とご勘弁。だけど、知りたいとも思うのだ、痛みの中、何かに自分の核を叩かれているように感じた、あの感覚が何なのかを知りたいと。叩いたのは、慎一郎さんなのだから。
「もう――送り出さなければならないね」
「ええ」
「君の帰りを待っている」
「お菓子を焼いて?」
「君の分も、君のご両親の分も、たくさん」
「式場も、決めて。いつお式を挙げるのかも」
「ああ。到着した後、時間ができたら電話するといい」
「時差があるわ」
「大丈夫、他の仕事より時間に融通がきく。君からの電話ならいつでも歓迎だ」
表向きの言葉とは裏腹に、ふたりはお互いの心の内を探る。
ねだってもいいの、いいのか、と。
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