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慎一郎は秋良の手を取り、腕時計の針を読んだ。
彼女は出立前に腕時計を普段使いから、ふたつの文字盤が並ぶタイプのものに切り替える。
日本と、フライト先の現地時間を指す腕時計。
日本の時間はあと少しで夕方になると告げている。
「少し、いいか?」
否応もなく、秋良の腰を抱いて彼は言い、手を上げて車道を走るタクシーを留めた。
そうだ、私たち、大人の遊びが足りていない。
言葉だけではなく、ふたりだから許される触れ合いをしてもいいんだ。
彼もきっと同じことを思っている。
手遊びをした頃は、彼の手の半分にも満たない大きさだった彼女の手。
手を打ち鳴らして遊んでいた頃は小さかったけれど、今は向かい合わせて握り合える大きさになった。
早く私を、ふたりきりになれるところへ連れて行って。
あなたのにおいに包まれたい。
導かれるままに車に乗り込んだ秋良は、隣に座る彼の手に、自分の手を重ねる。
彼はその手をしっかりと固く握り締めた。
指を絡めて、これから訪れるであろう至福の時を予兆させるように。
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