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◇ ◇ ◇
秋良が慎一郎と初めて会ったのは彼の父を見送る葬列の席でのこと。
彼女は小学校に入る前、彼はまだ高校生だった。
降りしきる秋雨と鈍色の空、秋のもの悲しさと共に彼女の記憶に残ったのは、彼のにおいだった。
その時まで、人にもその人特有のにおいがあって、個人ごとに違うとは知らなかった。
おとうさんとおかあさんのにおいは好き。
いっしょにいると落ち着いて、眠くなってしまう。
けれど、彼は違う。
ずっとそばにいたいの。包まれたいの。……大好きなの。
出会いの日から、彼は彼女の永遠の人となった。
うんと年上のお兄さんにひたすらあこがれ、恋い焦がれ、求めた。
子供にとって、一回りの年の差は大きい。
お互いの人生にまったく絡みようがないからだ。
いくら手を伸ばしても、届かない年月の差。
片手を伸ばしたぐらいの長さを個人のプライベートゾーンとするなら、微妙にお互いの手の長さだけ間が開いてしまう。
それ以上遠くもならず、さりとて近づかず……
そんな日々を、季節を、何年となく過ごしてきただろうか。気がついたら秋良は学校を卒業し、就職し、30を目前に迎える歳となり、同じ年頃の友人たちとは違った人生を歩んでいた。
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