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女なら、結婚や出産について考えない人はいない。選択を迫られる歳だから。
行き遅れというおそろしい言葉に反応するのはもちろんのことだが、身体が語りかけるのだ、子供がほしいなら早くしなければ、と。
愛する男以外受け入れられないという思い込みから、もし、相手が好いてくれるなら私も好きになれるかもしれない、と考えが変わった時、少女の頃の恋は叶わないものだと自分に納得させた。
ひとりの人を思い続けるのは辛い。他の女に取られるのを待つような今の生活はもっと辛い。
それなら自分が遠くへ行けばいいのだと。
辛さから逃れたくなるのは自然な感情だ。
昨日、秋良は他の男と見合いをすることになっていた。
慎一郎には伝えていなかった。親や親族には強く口止めをしていた。慎一郎に絶対に伝えてはだめだと。
だって……止めて欲しいと期待してしまう自分がいたから。
退路を断ったつもりだった。
予定をそのままこなしていれば、今頃は、明日から海外へ発つ仕事を控えて寮へ戻る前に、見合いした相手と軽くデートぐらいはしていたかもしれない。
一昨日の夜のことだ、慎一郎が自宅へ来た。
前触れもなく、いきなり。
どこから伝え聞いたのか、単刀直入に「見合いをするな」と言った。
どこにも行くな、僕の妻となる女はお前だと。
そして彼女を力強く抱きしめた。
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