10人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう少しで、みんな失うところだった」
「慎一郎さん……」
「二度と、手放さない。約束するよ」
端から見ていると、手をつなぎ、腰をゆるく抱き合うふたりは西欧でよく見かけるカップルのように自然だ。話す内容は犬も食わないなんとやらで、ふたり以外の人間にはどうでもよいこと。
会話をもっと楽しみたい。
同じ時間をたくさん共有したい。
24時間独占し合い、片時も離れたくないけれど、それは無理だから。
せめて今だけでもお互いしか見たくない。
だって、秋良が成田へ戻らないといけない時間は間近に迫っていたから。
別れの時が近いのはふたりとも自覚している。どちらともなく腰に回した腕に力がこもり、固く抱かれていた。
慎一郎は思う。
「行っておいで」と明るく送り出すのが切ない気持ちが、自分にも残っているとは思わなかったと。
秋良も思う。
「行ってきます」の一言が出せない。もう少し、あと少し、彼の腕にもたれていたい。
最初のコメントを投稿しよう!