序章

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彼女は和希の縄を解くと、右手を差し出す。 「私、雲母小百合」 「風見、和希です……」 「じゃ、よろしく」 恐る恐る差し出した和希の手を、雲母がギュッと握りしめる。 それから彼女は顔をしかめると、部屋に置いてあったデスクの上から、ボックスティッシュを投げてよこした。 「まず、顔を拭くことから始めてくれる? 最悪だよ」 じゃあお前も同じ目にあってみろ、と言ってやりたいところだったが、恐らく彼女はもっとすごい状況になったことがあるに違いない。 そうでなければ、この落着きはあり得ない。 そうおもうと、急に怖くなった。 震えを止めることができず、ただ黙々と言われた通りに顔を拭う和希を、ニヤニヤしながら見つめる雲母。 これが、この便利屋との出会い。 元々好印象ではなかったが、彼女が人生最悪の悪女だなんて、この時は思いもしなかった。
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