便利屋はルージュをひく

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無精ひげを生やし、凄まじいアルコール臭をばらまきながら喋る。 この浮浪者のような男が、友那の父親だった。 「もうお金なんてないわよ……」 母が震える声で言う。 すると父親は、テーブルの上に置かれていたせんべいを掴み、母に投げつけた。 「こんなものを買う金があるなら、余裕があるだろう!! 出せ!!」 「もう無いわ!! 今日食べるものを買うお金を出すだけで精一杯なのよ!!」 悲痛な母親の叫び声。 父は鋭い目つきで母を睨むと、食器棚に歩み寄った。 何をしようといるのか感づいた母は、必死に父にすがりつく。 「やめて!! それは大切なお金なの!!」 食器棚の中から茶封筒を取り出して、母にちらつかせた。 「あんじゃねえかよ。 どういう身分でこの俺に嘘をつくんだ、このアマ!!」 そう言って、母を殴りつける。 母は泣き叫びながらも、部屋から出て行こうとする父にすがった。 「お願い!! 友那にはちゃんとご飯を食べさせてあげないといけないの!! やめて!!」 「うるせえ!!」 すがりつく母を拳で殴り、時には足で蹴り飛ばす。 玄関までどうにかして止めようと必死に縋り付いた母だったが、最後には思い切り蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。 バタン、と大きな音がしてドアが閉まる。 悪魔の足音は、数分前と同じリズムで階段を下って行った。
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