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友那は、玄関前でうずくまりながらすすり泣く母親に近づく。
「お母さん……」
母は、心配そうに見つめる友那に向かって、無理やり笑顔を見せた。
その顔には痣があり、目は涙で赤くはれている。
口からは血がにじんでいた。
「友那、ごめんね……。 お母さんがこんなだから……」
「泣かないで……」
母は友那の顔を真っ直ぐ見つめ、こう言った。
「いい、友那。 女はね、かわいく、男に愛されるようにして生きないとダメよ。 かわいくないと、ちやほやしてもらえない。 それが一番いい方法なの」
「お母さん……?」
「いつか友那も分かるときが来るわ。 普段はきちんと男に媚を売って、かわいい女を演じるの。 そしていつか、その男を踏み台にしてのし上がって行きなさい」
母はふらつきながらも立ち上がり、化粧台に近づいた。
引き出しを開けると、その中から口紅を取り出す。
真っ赤なルージュ。
おしゃれに興味が出始めていた友那は、目を輝かせた。
母はにっこり笑って、ルージュを友那につける。
友那を鏡に向かせて、どう?と問いかけた。
「かわいい」
「そうでしょう? 友那は美人さんだから、きっと大きくなったらもっと美人になれるわ」
「なれるかな」
「なれるわ。 これは友那にあげる。 大事にしなさい」
「うん」
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