便利屋はルージュをひく

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――――――――――――――― 「ああああっ!!」 脳天に響くような衝撃と共に、和希は目を覚ました。 目の前には、冷たい視線で和希を見下ろす雲母がいる。 まだ夢と現実の狭間にいるような感覚がする。 和希は素早く辺りを見回した。 薄暗く、窓もない部屋。 しかしそこに不気味さはなく、濃紺のビロードのカーテンの奥には絵画で星空が描かれている。 天井からも何枚もの薄い濃紺や金色の布が下げられ、時たまどこからか風鈴のような音が響いていた。 灯は間接照明だけ。 部屋には今和希が眠っていたシングルベッドがひとつ。 部屋の真ん中には木の丸テーブルが置かれ、その上にはキャンドルがともされ、甘い香りを発している。 それ以外に、余計なものは存在しなかった。 まるで、占い師の部屋。 「雲母さん、でしたよね? どうしてこんなところにいるんですか? ていうか、ここ、どこですか?」 雲母は腕を組んだまま呆れたように目を回す。 「何にも覚えてない訳?」 「はい……」 雲母が深いため息をつく。 「いいわよ。 あとで全部説明するから。 とにかく、いい加減に起きて。 店、開けるわよ」 「店? 今何時なんですか?」
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