便利屋はルージュをひく

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部屋を出た先の廊下は、さらに扉を一枚隔てて広い部屋に繋がっている。 部屋の中央に半円形のバーカウンター。 広い空間だが、意外なことにカウンターには椅子が5つしか備え付けられていない。 カウンターには若い女性バーテンダーがいて、和希を見つけるとにっこりと笑った。 「おはようございます。 ゆっくり眠れましたか?」 「あ、えーっと……」 しどろもどろの和希に、彼女は再び微笑んだ。 ふわりとカールをしたこげ茶色の髪はきれいにポニーテールで束ねてある。 黒いバーテンの衣装がとても似合う、スタイルのいい女性。 雲母はどちらかと言えば怒らせたら怖い女性のイメージだが、この女性は清楚でかわいい。 そこいらのアイドルなんかの百倍はかわいい。 どこか幼さを残した彼女の笑顔はあどけなく、茶目っ気がある。 一目で相手を引き込ませる。 そんな不思議な魅力を持っていた。 「天羽雪乃と申します。 風見さん、でしたよね」 「ええ、そうです」 「雲母さんから聞きました。 大変でしたね」 「いやぁ、そうなんですよ……」 和希はニヤニヤしながらカウンター席に着いた。 「何か飲みますか?」 「えっと……、何かさっぱりした物を……」 本当はソフトドリンクが良かったのだが、この美人にかっこをつけたいという思いがかってしまった。 「かしこまりました。 すぐ作ります」 天羽はカウンターの下か大きなオレンジを二個取り出してそれぞれ半分ずつに切り、果汁絞り器の中に入れて絞り出す。
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