便利屋はルージュをひく

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雲母は一切和希を見ようとしない。 なんとも言えない空気に耐えられなくなったのか、天羽が苦笑いをしながら話を続けた。 「風見さんは、ここでやってる別のお仕事のことが知りたいのだと思うんです……」 「何? 便利屋のこと?」 和希が大きく頷く。 「言って無かったっけ?」 「微塵も憶えがありません」 「忘れただけでしょ?」 なんて性格の悪い女なのか。 カウンターの向こうにいる天羽はあんなにも美しく純情なのに、こっちの美人は絶世の美女でも性格が最低だ。 言葉にはその人の魂が込められるという。 こんなにも短く、単純な言葉でここまで人を不快にさせることができる人物はそういない。 天羽が困った顔をしていたので、喰いかかるのはやめた。 「もう一度、説明して差し上げた方がいいのではないでしょうか……。 大切なことですし」 「是非、お願いします」 心の中では無数の罵り言葉が浮かんでいる。 それでも和希は軽く頭を下げた。 「ここはね、表向きは隠れ家系のバーだけど、実際は便利屋の窓口なのよ」 「窓口? じゃあ、実際に動くのは雲母さんじゃないんですか?」 「便利屋は私だけよ。 全部一人でやるの。 組織になると、必ずぼろが出る。 人類の歴史がそれを証明してるじゃない」 「例えば?」 「わざわざ例を言わないとピンとこない訳?」
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