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顎が取れたのではないかとさえ思った。
床に倒れた和希を、髭面の怖いお兄さんが掴んで座らせる。
顎が飛びぬけて痛いのは事実だが、縛られている腕も尋常じゃなく痛い。
それよりも、後ろにいる、まだ未成年ではないか、と思われる男がナイフを取り出して部屋をうろつきだしたのを見て、これは冗談ではないのだと察知した。
「風見和希先生だね?」
どうして名前を知ってるのか。
怖すぎて何も言えないでいると、後ろでウロウロしていた男がナイフを突きつけてきた。
映画では喚き散らすシーンなのだろうが、和希は逆に息ができなくなった。
全身の震えが止まらない。
漏らす一歩手前である。
「兄貴が名前を聞いてるんだよ。 答えろ!!」
「はい、そうです!! わたしが風見です!!」
声は震えている。
大のおとなが泣きじゃくるなんて恥ずかしい、と誰かが言っていたが、それはそいつが本当に怖い思いをしたことが無いからだ。
とっくの昔に涙も鼻水も出ている。
これを汚いと批判する奴がいるのなら、そいつを引っ張り出して同じ目に会わせてやりたい。
少なくとも、今の和希にできることではないが。
「実はね、先生。 あんたの所の生徒さんを探してるんだよ」
「有村信吾君ってガキだよ。 知ってるでしょう?」
残念ながら知っている。
知ってはいるが、ほとんど知らない。
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