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「ぼくは知りません!!」
「嘘をつくんじゃねえ!!」
ナイフが振り上げられる。
もう終わりだ……。
和希は恐怖で目を閉じた。
ついに生涯彼女ができなかった。
誇れる思い出もないまま、人知れずヤクザに殺されて、これから先行方不明者のリストの一人になるのだ。
誰か一人でも、哀しんでくれる人はいるのだろうか。
そういう、どうでもいいことばかりが頭に浮かぶ。
「ねぇ、何やってんの?」
その声は、透き通るような女性の声。
場違いなほど呑気な、ゆったりとした話し方は、それはそれでまた怖い。
「あ、キララさん。 お疲れ様です」
和希はゆっくり目を開いた。
鉄製のドアから半分顔を出すようにして女性が部屋を覗き込んでいる。
ジーンズにTシャツという、あまりにもラフな格好。
年は和希とそれほど変わらない。
長い髪を後ろでポニーテールにしている。
化粧っ気はないが、モデル級の美人だ。
肌も色白、大きな目には力がある。
そんな彼女が、後ろ手に縛られた男と、ナイフを振りかざしているヤクザを見て、平然としているのである。
さっきまで恐ろしい形相で和希を脅していた男二人は、姿勢を正して雲母と呼ばれた女性に、笑顔を向けていた。
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