序章

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「やめてよ、その顔。 気持ち悪い」 明らかな嫌悪感を出しながら、雲母はそう言い捨てた。 部屋の中につかつかと入ってくると、珍しい物を見るように和希を見下ろした。 二人はさっきの強面に戻る。 「それで? 誰なの、この人」 「さっき逃げたガキの担任の先生です」 チンピラがまるで軍隊員かのようにキビキビと話す。 それを見た彼女は嫌悪感を隠そうともせずに髭の方を見た。 「ガキ?」 「有村信吾ですよ」 「あー、あのガキね。 で、なんでそのガキの担任の先生を拉致して来た訳?」 まるで興味のなさそうな口ぶりだ。 「それはこいつがあのガキを匿っているからで……」 雲母はため息をついた。 腕組みをすると、おどおどし始めた二人を彼女は睨みつける。 「遅いんだよ、情報が。 そのガキならもう警察に逃げた」 「……マジすか」 二人の顔が一気に青ざめる。 その状況を楽しむかのように雲母がほくそ笑んだ。 「私が嘘を言ったことがある?」 「ないっす……」 「お前らはしくじったんだよ。 警察はそのガキの証言から、一斉に組の処分に入るつもりだ。 このご時世、反社会組織には冷たい世の中だからね」 髭のほうはもう冷静でいてられないらしい。 狼狽えているのが和希にも分かった。 「そんな……、雲母さん、まさかボスには……」 「さっきこの話をお前んとこのボスに話してきたんだ。 そしたらここに馬鹿が二人いるはずだから、そいつらに事務所に戻るように言えって言われて来たんだよ」 雲母はニヤッと笑ってこう付け足した。 「ボスからの緊急の呼び出しだって。 怖いねぇ。 こんなところで学校の先生と遊んでる場合じゃないと思うけど?」 さっきまで強面だった二人の顔が青ざめている。 これは助かったかもしれない。 そう思ったのもつかの間だった。 二人は顔を見合わせると、和希の方をちらちら見ながら小声で話し時始めた。
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