序章

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「……はい?」 「ガキのこと、喋らなかったでしょ?」 彼女はまだ笑っていた。 しかしどこか品定めするようなその表情が、和希の不安を煽る。 「ああ……。 そのことですか……」 「ナイフを突きつけられても口を割らないなんて。 一般人にはそう簡単にできることじゃない」 「……何が言いたいんですか?」 雲母はニヤっと笑うと、簡潔に切り出した。 「私と一緒に、働かない?」 「え?」 雲母が少しだけ笑う。 「私ね、便利屋やってるの。 便利屋って言っても、雑用係なんだけど」 「はぁ……」 「口を割らないあの度胸、この仕事に向いてると思うんだよね。 ちょうど前の助手がいなくなっちゃったし」 「いなくなった?」 雲母が愉快そうに笑った。 きっと、顔が引きつっているのがばれたのだろう。 仕方がない。 死ぬほど怖い思いをしているのだ。 「大丈夫よ。 別に消されたわけじゃないわ。 優秀なジャーナリストさんとして独立しただけ。 まだ私の手伝いもしているけど、今は本業の方が忙しいみたいだから」 「そうなんですか……」 「それで? どうするの?」 和希は返事を決めかねていた。 命を助けてくれるというのはありがたい。 しかし、この女も絶対に危なくないという保証はない。 あの男二人を見る限り、少なくとも彼らに対する権力はあるようだ。 この人の助手をするというのは、このヤクザに貢献するということにはならないだろうか。 それは、絶対に許される事ではない。 少なくとも、自分の中では。
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