私だって、つらい。

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しばらくして目を覚ましたミカは、おかしな体制で寝ていたせいでほんの少し痛む背中を伸ばして、壁にかかった時計を見上げた。 この時間なら母親が夕食の支度をしている頃だ、と腰をあげテーブルの上のリモコンに手を伸ばす。しかしテレビの画面は真っ暗で、電源が落ちているようだった。 お母さんが消したのかな? そう思いながら、リビングのすぐ横のキッチンに向かった。 キッチンに入ると、ミカの鼻をなにかのにおいが突いた。それは空腹の胃袋を刺激するカレーのにおい、ではなく、胸焼けがしそうだが箸が止まらない絶品のから揚げを揚げる油のにおい、でもなく、生臭い魚が香ばしく焼け、よだれを誘うにおい……でもなく。 明らかに食材の物ではない真っ赤な液体が床に広がり、それが異臭を放っていた。そばにエプロンをつけた母親が、胸の真ん中に包丁を突き立てて倒れている。 母親の誕生日に弟と一緒にプレゼントした、花柄のエプロン。素敵な柄ねと嬉しそうに微笑んでくれた母との思い出に、深く深く鋭い刃物が穴を開けていた。 「お、かぁ……さ」 まな板には、なにも乗っていない。
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