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目の前の光景が信じられなくて、どうしていいのかわからない。肉や魚とは違う生臭さが鼻を突き、胸を突く。真っ白になりかける頭をなんとか動かして、ポケットにある携帯電話の存在に気付いたのは奇跡だったかもしれない。
手が震えてポケットに入らない。それでもなんとか長方形の四角い物を取り出し、つるつると滑る素材が指を嫌って床に落ちる。カシャンと音が鳴って慌ててしゃがみ、肩まで震わせながら携帯電話を開いた。
無我夢中で救急車を呼ぼうとしたが、見慣れた電話の画面には"圏外"の表示があった。「うそでしょ」と声を漏らしながら腕を伸ばして機械を振ってみる。が、電波のしるしはひとつも立たない。
携帯がダメなら家電だ!とキッチンに置いてある固定電話の子機をひったくった。
ダブルプッシュしそうになりながら110を押す。子機を押し当てたミカの耳に"ピー"と無機質な音がいつまでも鳴り続け、家電も使えない事をやっと察する。
試しに振ってみる、なんて事も思いつかず、力が抜けそうな手で子機を持ったまま立ち尽くした。
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