3人が本棚に入れています
本棚に追加
木製のドアを叩く。ノックするように弱々しく、しだいに力を込めて手が痛くなっても叩く。インターホンの存在に気付いたのは小指が痺れてからで。握ったこぶしが硬く強張って開かないので、そのままインターホンの音符マークがついたボタンを押す。
何度押しても、ドアを叩いても返事がない。まるで空っぽの家に押しかけているようで、反応がない。
そう、反応がないんだ。
隣の家には、小学生の男の子がいて、弟がよく一緒に遊んでいた。両親の都合で、男の子をうちで預かった事もある。元気で、無邪気で、ちょっとわがままな可愛い子だ。両親も、一人息子を可愛がっているのがよく伝わってくる。3人で出かける事が多くて、仲の良い家族だなとほほえましく思っていた。
そんな、この家の中。……鍵がかかって開かないドアの向こうでも、自分の家と同じ事が起こっているんじゃないかと思うと、握り締めていたこぶしからすーっと力が抜け、背筋をぞわぞわと何かが這い回る。
もう、このドアは叩けなかった。
後ずさりするように、壊れたロボットのように足を動かし、道路に出る。
最初のコメントを投稿しよう!