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心臓が暴れるように動いて、呼吸がうまくできない。それでもなんとか道路に出て走った。外に出れば誰かが助けてくれるかもしれない。交番に行けばなんとかなるかもしれない。そんな思いでいっぱいだった。
しかし、その道の途中でも、信じられない事が起こっていた。いや、それはすでに"起こり終わっている"のかもしれない。
道にはたくさんの人の影がある。
夕暮れを過ぎ、辺りは薄く闇に包まれようとしている。影は濃くなり、地面に張り付く。
張り付いているのが、影だけであったなら、不思議はないだろう。
誰一人、動いていない。
誰一人、立っていない。
誰一人、生きていない。
空の星も見えず、月だけがこの光景を見せ付けるかのように照らし出す。
雲ひとつない暗闇に、生者の光は灯らず、曇りだす視界に、死者の姿を焼き付ける。
ミカの口からは、声も出なかった。
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