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アンドレは、相変わらず黙っていた。
わたしは急に恥ずかしくなって、俯いた。
「何を、浮かれていたんだろう……」
アンドレはきっと、呆れている。こんなわたしのことを、笑っているかも知れない。
そう思うと、悲しくなった。
その時、わたしの片方の頬に、手のひらが触れるのを感じた。
それは、大きくて温かい、男の人の手だった。
その手が、優しくわたしの顔を上げて、そしてもう片方の手が、さっき落としたはずのメガネをつけてくれた。
その瞬間メガネ越しに、目の前に立っているアンドレの顔が、はっきりと見えた。
彼はいつものように、優しく微笑んでいた。
でもすぐに、その顔から笑顔が消えて、真剣な表情に変わった。
そして、アンドレの顔が、ゆっくりと、わたしに近づいた。
わたしの中に、緊張が走る。
彼の鼻先が、わたしの鼻に触れた。
わたしは、決められたように、目を閉じた。
アンドレの唇が、わたしの唇に重なった。
とてもやわらかくて、温かい唇だった。
わたしは目を閉じたまま、体中の神経を使って、アンドレを感じていた。
そして頬に置かれた彼の手に、わたしの手をそっと、重ねた。
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