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彼の唇が離れていく時、わたしの心の中が、温かいもので満たされていくのを感じた。
それは決して、妄想では感じることのできない感情だった。
「ヒメニハ、メガネガニアイマス」
アンドレはそう言って、微笑んだ。
「また、会えるよね」
なぜだか急に、アンドレが遠くに行ってしまうような気がした。
「ダイジョウブ、キット、マタスグニアエマス」
そう言った後、彼はまた、わたしの額に唇をつけた。
その瞬間、わたしの頬を涙がつたった。
わたしは、メガネを外してそれを拭った。
次にメガネをつけた時にはもう、アンドレの姿は消えていた。
いつものがらんとした店内に、マスターが見ているテレビの音だけが聞こえていた。
でも不思議と、悲しいとは思わなかった。
アンドレの手と、唇の感触が、まだわたしの中に残っていた。
わたしは少し微笑んで、また、本を開いた。
そして、最後の物語を読み始めた。
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