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最後の話は、意地悪な継母によって、牢屋の中に閉じ込められたお姫様の物語だった。
姫は長い間、外にも出られず、牢屋の中で暮らしていた。
彼女の楽しみといえば、大好きな本を読むことだけだった。
暗い牢の中で、いつも本を読んで、幸せな妄想に浸っていた。
そんな姫の噂を耳にした隣国の王子が、不憫に思って姫を牢から出してあげるよう、継母に頼んだ。
でも意地悪な継母は、絶対に首を縦に振らない。
王子は、たいそうな量の金品を継母に差し出して、それと引き換えに姫を自由にしてほしいと言った。
強欲な継母は、その金品に目がくらみ、すぐに姫を牢から出した。
牢から出された姫を見た王子は、そのあまりの美しさに、一瞬で恋に落ちた。
後からわかった事だが、あの継母も、姫のその美しさに嫉妬をして、牢屋に閉じ込めてしまったのだという。
姫の方も、自分を自由にしてくれた王子にとても感謝をし、二人はいつまでも幸せに暮らした、という物語だった。
最後のページを開くと、自由な空の下で口づけを交わす、王子と姫のイラストがあった。
王子は短くて、くるくるとカールした金色の髪に青い瞳のイケメンで、白い貴族の服を着ていた。
そしてイラストのお姫様は、この本を借りた他の誰かがいたずらで描いた、黒いメガネをかけていた。
「また、すぐに会えたね」
わたしはそう呟いて、笑った。
幸せそうな二人のイラストを眺めながら、わたしは思っていた。
明日、メガネ屋さんに行って、新しいメガネを作ろう。
そのあと、ファッション誌を買って、駅前のお洒落なカフェに行ってみよう。
わたしはカップに残るココアを飲みほして、そっと本を閉じた。
『妄想喫茶』 ―了
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