妄想喫茶

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 わたしには、ささやかな楽しみがある。    それは、お洒落なカフェでラテを飲みながら、ファッション誌を読むこと。    ……なあんて、言ってみたいな。    本当は、さびれた商店街の古びた喫茶店で、甘ったるいココアを飲みながら、図書館で借りた恋愛小説を読んで、妄想に浸ること。    それが、わたしのささやかな楽しみ。  夕方のこの時間はお客さんが少なくて、わたしはいつも一番奥のこの席に座って、本を開く。  暇そうなマスターのおじさんは、カウンターの中でテレビドラマに夢中になっている。  誰にも邪魔されず、本に夢中になれるこの空間が、わたしは案外嫌いではない。  気に入っている恋愛小説は、十編からなる短編集で、全ての物語が西洋の王子様とお姫様の恋愛話。  二十歳にもなって男の人と付き合ったことのないわたしは、自分が小説の中のお姫様なったつもりで読む。  そして、本の中の王子様に、甘い恋心を抱くのだ。  妄想の中で、お姫様のわたしは王子様と恋をする。
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