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ふと見ると、誰もいなかったはずの向かいの席に、男の人が座っている。
短くて、くるくるとカールした金色の髪に、透き通るような青い瞳の外国人だ。
彼はその青い瞳で、じっとわたしのことを見ている。
「……え、……ええ!?」
わたしは驚いて、勢いよく周りを見回した。
でも、わたし達以外にお客さんはいないし、マスターは相変わらずカウンターでテレビを観ている。
恐る恐る、もう一度、向かいにいる外国人に視線をやった。
彼は、優しい顔で微笑んでいる。かなりのイケメンだ。
わたしもつられて笑顔になりかけるが、我に返って頭を振る。
「え、えっとお……」
ただでさえ、男の人と会話経験の少ないわたしは、頭が真っ白になっていた。
「ワタシノナマエハ、アンドレデス」
彼は片言の日本語で、そう言った。青い瞳と同じ、透き通るような声だった。
「アナタノナマエハ?」
「え……わたしですか!?わ、わたしは……榎本さゆき、です」
なぜ正直に名前を言ったのかはわからない。ただ、その優しそうな笑顔を見て、彼が悪い人だとは思えなかった。
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